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本土

概要

経済特区設立後、二十年余りを経て、世界でも有数の金融セクターへと変貌を遂げた直島に対し、外のエリアに属する本国領域のこと。主権国家の枠組みの中にありながら特区運営法の定める特別行政区として、自由主義的な法制度や経済システムが施行されている直島とは異なり、今なお旧弊にまみれた経済システム、そして社会制度が残存した地域だ。そこでは基本的生活の安定と引き換えに、さまざまな経済活動における自由が縮小している。

そのような事情もあって、特区運営法施行後に生まれた世代を中心に、直島とは異質なエリアだと認識されて久しい本土ではあるが、同法が施行されて数年の間は、主要グローバル企業が本社機能を次々と移転させるばかりか、低い実効税率にひかれた企業がこぞって進出するなど、狭い直島特区へ本土からの人口移動が急激に膨れあがった時期でもあった。

ところがこうした開放的な人口政策は、次第に見直されるようになった。末端労働者を中心とした都市流入民の貧困、スラム化といった社会問題に歯止めをかける必要が生じたためだ。人口増加率がピークに達したのを境に調整政策が採られ、特区運営法施行後10年目には本土との人の行き来に大幅な制限を課すための法改正がおこなわれた。金融セクターとして成長する都市部とスラムの同居はそれからさらに続いたが、問題が解決に至ったのはくしくも、直島特区設立20周年をにらんだ、大規模再開発計画によってであった。

そして現在。本土と直島特区の間は全長2キロメートルに及ぶ海上通路「サイレントライン」によって、実質的な封鎖状態にある。

クロノス・インベストメント

概要

クロノス・インベストメントは、直島経済特区最大の投資ファンド運営会社である。低リスク資産の長期保有を目的とした直島事業基金を傘下に持つ一方、会社の主力はリスク案件への積極的な投資を目的としたプライベート・エクイティ(PE)部門にある。PE部門はバイアウトファンド、不動産ファンド、ヘッジファンド、M&Aアドバイザリーなどのセグメントからなりたっており、これらの旗艦ファンドは150億ドル/年の運用利益を叩きだしている。ファンドの運用資産規模は1200億ドルにおよび、ポートフォリオ企業の数は100社以上、年間総売上は5000億ドルに迫る。

投資ファンドとしての性格

買収先企業の資産やキャッシュフローを担保として資金調達するレバレッジド・バイアウト(LBO)を多用し、企業に成長資金を供給しながら経営再建を実施する投資手法からプライベート・エクイティ・ファンドに分類されるが、同時にハイリスクな短期投資を組み合わせる投資形態をもってヘッジファンドだとする見方もある。

クロノス代表=“ハゲタカ”

もっとも直島経済特区発足と同時に設立されたクロノス・インベストメントには、最初からハイリスク投資を手控える選択肢はなかったといえなくもない。「特区の最高運用責任者」とも称されるクロノス代表によせられた期待は、新たにつくりあげた自由主義経済圏の活性化であり、それによってグローバル世界の富を自国に引き込むことにあったからだ。
前世紀末に発達したM&A(mergers and acquisitions、合併と買収)ビジネス、金融のイノベーションによって編み出されたファイナンス技術を駆使して飽くなき利益を追求する姿勢に対して、設立当初は旧世代の経営者による批判は少なくなかった。しかし、内部収益率の向上による買収先企業の企業価値改善がはかられ、グローバル企業としての競争力を回復し、さらにはクロノス自身が驚異的な利益を計上し続けるに至って、その手の雑音は潰え去った。

金融帝国の王はナオシマの支配者?

欧州の防衛産業からインドシナ最大手の小売・流通チェーンまで。幅広いグローバル企業への投資をおこなう傍ら、名実ともに「特区の最高運用責任者」の地位を確かにしていったクロノスは、直島特区に林立する金融機関、投資会社にアドバイザリーを送り込むのみならず、ときに非公式な形でディールの修正要求を出すなど、私企業をはるかに超えた影響力を及ぼすようになっていった。
とりわけ過去最高の利益を計上し、前任者の経営ミスを補って余りある活躍を見せる現ハゲタカ、渚坂白亜においてそうした「指導」は顕著となっており、加熱するマーケットの支持とは裏腹に自由主義の行き過ぎ、資本主義の暴走と見る分析もあるが、そうした声はあくまで少数派にとどまっている。なぜなら「カネが全て」の直島特区において、稼ぐこと以上に尊ぶべき哲学は存在していないのだから。

自己破産

概要

自己破産とは、多額の借金によって債務者が生活を維持できなくなり、努力してもこうした借金を返せない状態にあることを裁判所が認め、返済義務を免責する一種の救済制度である。手続き上、必要最低限の財産以外は処分して債権者に分配しなければならず、浪費やギャンブルなど、借金の理由によっては免責を認められないケースもあるが、債務者の更正支援を目的とした法的手段として発達してきた権利でもある。

「SRP」による運営

以上のような自己破産の一般的定義に反し、直島経済特区においては自己破産の概念はなく、同時に救済的性格をもった権利は認められてはいない。代わりに債務者は、特区運営法が定めた契約にしたがって、最低限の生活水準を保障されながら債務返済のための自己再生労働に従事することになる。法的人格ではなく、経済的人格の集まりとして定義されるマーケットでの個人再生スキーム。これらを総称して「社会復帰プログラム」(SRP)と呼ぶ。

欧州の批判

経済成長とそこで稼ぎだす利益を優先する余り、特区の運営は基本的人権を侵害しているとの批判は欧州の知識人を中心に根強く存在する。ビジネスの原資となる「クレジット」(信用)の供給が社会成員に対し積極的におこなわれる一方、人的資本をあたかも土地のような担保として扱う発想が、本来的に個人が有する自由を著しく歪めているというわけだ。

特区の反論と議論の行方

これに対し直島特区の設立者たちは、特区の編みだしたスキームは、グローバルな経済秩序によって生じる失業を解決するための優れたやり方であると主張した上で、メンバーシップの有資格者に手厚い保護を用意するが、それ以外の経済的プレイヤーに冷淡な欧州諸国家こそ矛盾を抱えており、彼らに人権批判をする資格はないとの反論を繰りひろげてきた。
個人の自由を保障するために経済社会を公的な強制力、すなわち規制の網で覆うべきか、それとも社会の庇護を取り外し、自由な経済社会を実現する代わりに個人がリスクにさらされることを是とするのか、水面下でおこなわれた議論の答えは未だ出ていない。

早乙女ファイナンス

概要

早乙女ファイナンスは、消費者や事業者を相手にカネを貸し付ける(融資をおこなう)貸金事業会社。預金を貸付原資とする銀行(バンク)に対し、資金調達を銀行借り入れや他の金融マーケットでおこなうことから、これを「ノンバンク」と呼ぶ。早乙女ファイナンスは設立から数年で上場企業となった、直島経済特区を代表する大手ノンバンクである。

グレーな経歴は不都合な真実か

創業社長の早乙女凪の経歴にはよからぬ噂がつきまとう。特区の内外からビジネスエリートをめざす若者が集まる直島特区高等経営学院を中退したのもそれが原因だったという。数々の黒い噂によれば、過去に無登録の貸金営業をおこなっていたとも、特区出資法の上限金利を超えるハイリスク融資をおこなっていたとも言われている。

直島を代表する優良企業へ

しかしそういった雑音を封じたのは、早乙女社長本人の経営手腕だった。金融テクニックによらない買収によって中小の貸金業者を取り込み、異例のスピードで株式上場をはたしたのも、金融エリートらしからぬ社長の手腕によるものが大きかったと見る向きが多い。現在では幅広い金利と柔軟な担保基準を売りとした直島きっての優良ノンバンクとして内外の投資家から高い評価を得るに至った。

rsp

“SRP”

直島経済特区最大の企業・フェニックスエナジーを筆頭に、彼らの委託を受けて早乙女ファイナンスが運営している“社会復帰プログラム”の略称。一種の人材派遣業だが、徹底した自由経済の結果、半ば公的な色彩を帯びるようになった特区の社会事業という位置づけにある。次期ハゲタカ候補に早乙女凪が押しあげられた理由の一つがこの事業の委託業者となったことにあるというのが市場関係者のもっぱらの見方だ。

ファンド

概要

個人や法人を問わず、世の中にはたくさんの金持ちがいるが、彼らが自分たちのカネを増やす方法を知っているとは限らない。比較的安全に儲かる投資先(たとえば国債)は運用利回り低く、儲けは薄い。より多くの儲け、運用利回り、すなわち「リターン」を求める金持ちがいるからこそ、投資ファンドに存在意義がある。
投資ファンドとはハイリターンをめざすための魅力的な仕組みだ。投資家から集めた資金を得意のテーマに沿った投資先へと投資し、そこから上がる利益をリターンとして投資家に分配すること。ファンドとはこれらを運用する仕組み自体の名称だが、派生して運用を担う投資会社を指すこともあり、一般にはこの使われ方が定着している。

ファンドマネージャー

ファンドの組成を担い、募集した資金を実際に投資、運用する責任者のこと。ファンドのマネジメント費として数%の手数料、運用実績に応じた20〜30%の成功報酬を得るケースが多い。大きなリターンを狙うがゆえにしばしば過剰なリスクにさらされることもあり、信じられないほどのカネを稼ぐスーパーリッチがいる一方、巨額の損失をだし破綻することも。

ディール

元来は為替や株式の取引を指す業界用語。現在では様々な金融取引のことをディールと呼び、ファンドが手がける投資案件の単位も「ディール」である。例:ビッグディール=巨額のカネが動く大規模な取引案件

マイワード・イズ・マイボンド

一刻を争うスピーディな取引は契約書を交わさずに執りおこなわれるケースがざらだ。そのとき一度発した買い注文の「言葉」こそがそのまま保証書代わりになる。
“my word is my bond(私の言葉が私の保証)”とは、世界の金融センターのルーツともいえるロンドン「シティ」の理念を最も端的に物語る言葉。信用にもとづいた約束と取引、それによってなりたっているビジネスの本質は、時代が移ろい、金融のメインプレイヤーが銀行からファンドに変わったとしても、変わることはないのだろう。

煮干しらーめん

概要

煮干しとは小魚を煮て干した食材で、鰹節や昆布とならび、古くから魚介ダシの一つとして使用されてきた。ところが上品な味つけが好まれる和食ダシに比べ、より刺激的でインパクトのある味わいが求められるラーメンの嗜好とマッチ。鰹節が加工過程で取り除くいわゆる魚らしさが、煮干しにおいては全面に出ているため、ともすれば「えぐみ」となる頭やはらわたごと旨みを抽出し、動物系スープとあわせる手法がしだいに確立していった。

ニボニボ感

魚のクセのある「えぐみ」をむしろ強烈に残した独特の旨み、風味のことを指す。もっともそのガツンとくる味わいは、好き嫌いがわかれるポイントでもあるため、この上なく愛好する人もいれば、雑味が受けつけないという向きもある。

にぼジイ

突出したインパクトをもつ煮干しに魂を奪い去られ、同時にその底知れない奥深さにのめりこんでいったらーめん職人。えぐみをきかせたガツン系の王道を受け継ぎつつも、煮干しのもつ多彩な魅力を提供すべく、ふんわり香る上品系から、えぐみを完全に取り去った「究極の煮干しらーめん」を生みだすなど、自由自在な煮干し使いの男として業界では知る人ぞ知る存在。
若草にぼにぼフーズ(株)の社長でもあるが、料理人としての才覚に比して経営手腕は未知数。本人はデッカイ野心を抱いているようだが…。

ふぁいなる煮干し祭り

「生涯煮干し一筋」を掲げるにぼジイが、週一ペースで行っている限定サービスのこと。「当たらなかったら即廃業」と、ぎりぎりまで自分を追い込むことにより、いまだかつて誰もがなしえなかった煮干しの新境地を切り拓いていった。
その飽くなきチャレンジ精神はとどまることを知らず、スパイスのように他種類の煮干しのブレンドを試みたり、はては「マグロの煮干し」を業者に特注して、すったもんだのトラブルになった過去も。

ハゲタカ

概要

直島経済特区最大のファンド「クロノス・インベストメント」のファンドマネージャーを務める、渚坂白亜の通称。「特区の最高運用責任者」とも称されるクロノス代表の呼び名として徐々に定着しつつあったが、渚坂白亜の活躍、辣腕ぶりから、彼女個人を指す代名詞として、業界関係者の間では国際的にも広く知られるようになっている。
かつて「ハゲタカ」とは経営危機に陥った企業の債券・株式等を買いあさるファンドの姿を批判、揶揄する言葉だったが、その意味で使う者は今では少数派。

かつてのハゲタカ

ファンドの投資形態はいくつかあるが、大規模な資金を集め、そのカネを企業、金融商品、不動産などの経済的価値にたいして投資をおこない、そこから収益(リターン)を上げることをめざす点で共通している。「ハゲタカファンド」とはその中でも、何らかの理由によって価値の毀損した、リスクの高い投資対象をターゲットとするファンドのことだった。
グローバル化以前の企業経営は、国籍地の文化、たとえば日本なら家族的経営をあるべき姿とする考えに影響されていたため、こうした利益至上主義ともいえるファンドのあり方は、旧来の企業文化、くわえてそれを取り巻く社会を壊すものと受けとめられ、激しい批判にさらされた経緯がある。

渚坂白亜

クロノス・インベストメントの現代表を務めるファンドマネージャーにして、利益至上主義の経済特区を体現する人物。就任当初は年齢的な若さから経験不足との声も挙がったが、冷徹な戦略にもとづく、その妥協知らずの投資手法が目覚ましい成果をあげるにつれ、様々な雑音を封じ込めたことは記憶に新しい。
メディア露出も多く、彼女の就任以降「ハゲタカ」といえば渚坂白亜個人を指すようになるほどの高い知名度を持つ。

ハゲタカ試験

クロノス・インベストメントのファンドマネージャー選抜試験のこと。渚坂白亜のアシスタントマネージャーである、ケビン・ポールソンの転職に伴い、後任を選抜するために行われることになった。
試験がめざすのは一方で、裁量領域が広がり続ける渚坂白亜の職務をカバーする人材の登用だが、他方で「ハゲタカ」の後継者という形でバックアップを置くことが、現ハゲタカのパフォーマンスを常に最高のリターンへと追い立てるとの意図もそこにはある。なぜなら、次期ハゲタカとは、彼女の部下であると同時に、その地位をおびやかす競争相手であるともいえるからだ。
実際の選定は経済安定化理事会のメンバーによって行われる。選抜基準は非公開ではあるが、より稼いだものが選ばれることに違いはないだろうとされている。

直島経済学院

概要

直島経済学院(なおしまけいざいがくいん)は、直島経済特区に存在する唯一の公的学業施設。
17年前に設立され、経済安定化理事会によって運営されている。
初等部、中等部、高等部が存在しており、高等部からは直島経済特区外からの入学者も募集している。

立地

特区の象徴であるフェニックスタワー内部にキャンパスを持ち、高等部の講義も同所で行う。
初等部、中等部までの義務教育については、特区内の営利・非営利団体に講義を委託している。

建学の精神

直島経済学院は、設立当初から以下の理念を掲げている。

  • 本国の経済界をリードする人材の育成
  • 優秀な学生へのより多くの機会の提供

中等部からは義務教育以外に経済学が必須科目として設置されている。
高等部からは投資科と経営科に分かれ、全ての学生が実地研修の名の下に、経済活動に実際に携わることになる。

講義への自由出席

学生は、講義への自由な出欠席を全面的に認められている。
特に高等部からは多くの学生が企業の運営に関わるため、学生が講義に出席するのは実質初年度までと言われている。ただの放任主義ではないかとの批判もあるが、学院側は学生の自主性を最大限に重視した結果である、と発表している。

学生への投資

高等部に進学した学生に対しては、学院が積極的に投資を行っている。
その結果、直島経済特区における学生起業の件数は世界でも有数である。
実際に、学生が起業した企業が、卒業後も直島経済特区で成長を遂げるケースは多い。

直島経済特区

直島経済特区(なおしまけいざいとっく、英語:Naoshima Special Economic Zone)は、日本の経済特例法指定区域である。
世界有数の世界都市であり、同国の金融の中心である。現在の常住人口は150万人を超えており、域内総生産は首都の東京都を凌ぎ同国最大である。

気候

温暖湿潤気候の島であるが、年々の温暖化のため亜熱帯気候であると近年では言われている。平均気温は24℃の常夏の島である。温暖化の原因としてここ20年の島の乱開発が原因であるとの指摘もされているが、島内には開発前の自然が多く残っている地域もあり、直接的な原因と断定するには根拠が薄いという説が主流である。

地理

埋立地

島の最南端に存在する直島の中心部である。
23年前に埋め立て工事が始まり、18年前に完成した。
現在では直島の象徴であるフェニックスタワーが立つ、行政と経済の中心地である。

工場地帯

旧市街区とも呼ばれ、経済特例法成立前からの居住区である。
現在も居住地域に隣接しており、さまざまな工場が設立され、直島経済特区のインフラを支えている。

未開発地区

直島本来の自然が残る丘陵部。
かつて大規模な開発計画も存在していたが、自然保護団体の強い要請もあり、かつての島の名残をとどめている。